安乗のデビルソード 11時間30分の激闘
8月12日 この日は凄いアタリ日で朝のうちで
4発のバイトがあった。中堀さんのBC611SHP−GMが
唸りを上げた。
姿を現したのは100kgクラスのシュモクザメでした。
AM9:16 ドラム缶をぶち込んだような水しぶきを
立ててカジキがバイトした。
TUNAロッド 9.2フィートの試作ロッドが唸りを上げた。
この後、延々とファイトは続いた。TUNA92が
曲がる。弾性を抑えてありとても耐えやすい。
ファイト中、延々と11時間30分間、20〜30秒に
一度はラインに水をかけて下さった。
皆が獲るため一丸となり頑張った。
狡猾な野獣は水面に出ても空気を吸わない様に
派手なジャンプはしなかった。、軽くヘッドシェイクして
また、深く潜っていった。
ラインは出たり入ったりした。1200m出入りした所までは
数えていたが、炎天下で意識が朦朧として
その後、何m出入りしたのか分からなくなった。
7時間を越えたとき、皆が夢か現実か分からないと言い出した。
5〜6時間目だったと思うが水面に浮上してきた
カジキに銛が打たれた。しかし、気が狂ったカジキは
銛のロープを引きちぎりリーダーマンの手に火傷を
負わて200mラインを引き出した。
何キロか分からないが4mはあると片山船長は言った。
今まで見たことが無い凄い体高のカジキだった。
完全にスタンドアップスタイルを崩され、体が何度も海に
投げ出されそうになった。7時間目が一番つらく
泣きたい気分になった。皆の疲労も限界に来ていた。
凄い集中力で片山船長がラインを見てリモコンで船を
コントロールして下さった。
8時間を過ぎると限界を超えてランナーズ ハイの状態になったのか全く疲れが消えた。何故か、笑いが込み上げてきて
止まらなくなった。疲れは感じないが通常の精神状態ではないと思った。安乗海溝付近でヒットして尾鷲を通過していた。
10時間目に日が暮れてしまった。無線も電話も通じない熊野灘 和歌山県の一歩手前まで引っ張られていた。
11時間目、真っ暗になった海で勝負に出た。GTのファイトのようにPE5号の限界で思いっきり負荷をかけた。
30分位強いプレッシャーを掛け続けているとカジキの動きが急に変化した。カジキが怖がって慌てた様が手に取るように
分かった。50mの水深を泳ぎ続けていたカジキは急浮上してジャンプした。真っ暗で何も見えない海に
シルバーに輝くビーストが体全体を見せてジャンプした。同時にスプールは気が狂った様に回転した。
でかい、でか過ぎる、こいつは手に負えないなと思った。
水面近くにいる為、ライン角が大きく変化してしまう。真っ暗でラインが見えないので船のフォローが出来ない。
夜にファイトを持ち込んだ人間の不利は目に見えていた。
PM8:45 全神経を傾けてファイトしていたつもりだったが、急激にカジキが反対舷に泳ぎの方向を変えた時、
真っ暗で見えなかったその先には散水のホースが舷から少し出ていた。張り詰めたラインは11時間29分の
緊張から開放された。いつ終わるか分からない戦いに幕が下りた。
皆が一丸となり頑張ったがやつには敵わなかった。
背中に銛が刺さったままのそいつに”安乗のデビルソード”と名付けた。
今回、この経験を通して一番痛感したことは一人では何も出来ないということです。釣りというものは
釣った人間が華やかに見えてしまいがちです。しかし、このカジキの釣りにおいてランディングまで皆が同じ目的に向かって
力を合わせる事によりはじめて事が成就すると思います。釣り終ってPEラインを見ましたが、ヨレヨレ ケバケバに
なっていました。普通だったら絶対にもっと早く切れていると思います。何故切れなかったかというと11時間29分中
延々と真水をラインにかけて下さったからです。ドラグが回転しているときは勿論、20〜30秒ごとにラインブレイクするまで
休むことなく水をかけてくださいました。魚の動きを見てドラグの作動を確認してずっと緊張の連続です。
ファイトした私と同じくらいかそれ以上に船長をはじめ皆、凄い疲労でした。
11時間29分という時間は皆が同じ目的に向かい力を合わせたので出来た事で
私は私の持ち場の仕事を一生懸命したとの思いです。
カジキ釣りというものは上がった魚は皆の魚であり、各々の持ち場の仕事を全力で頑張った結晶といえると思います。
カジキ”釣り”と言いますが、半分は釣りであり、半分は狩りだと思います。
何百キロの魚を釣り上げるということは多分無理です。
大型カジキやサメは最後は銛やフライングギャフでの捕獲になります。
この捕獲という仕事は大変な危険をはらんでいます。
この釣りはスリル満点な釣りですが、安易にトライすると命の危険が伴います。
与那国島のカジキ漁師の方で銛のロープで指を飛ばしている方や肉をえぐっている方が多くおられます。
また、銛のロープが足に巻きそのままカジキにさらわれた漁師の方もおられます。
与那国を舞台にした老人と海の主人公の方も撮影の直ぐ後にカジキの漁に出たまま、カジキにさらわれて
船を残したまま帰らぬ人となられたと聞いています。
今回のカジキでも友人が銛のロープで火傷をされました。あのカジキを見た皆が恐怖を覚えたと言いました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、現場にいた者は皆、凄まじい光景が目に焼きついています。
私も大型魚の怖さを知るまでは正直なめていました。カジキは200kgを超えると別物になると言います。
多分、このHPをみて面白そうと思われてやってみたいと思われた方もおられると思いますが、
これがきっかけで始められたカジキで事故が起こっては悲しいです。私が言うのもおかしな話かもしれませんが
出来ることならカジキを上げる設備が無い船や知識が無い船頭の船では安全の為にやられないほうが良いと思います。
大きな野獣に対して武器や知識なしに挑めば、重大な事故が起こるような気がします。
私も最初はカジキが掛かったことなど何も考えずにシイラのポイント移動時やGTの海外遠征時にタコベイトを流していました。
2002年に85kgオーバーのカジキを三重で上げていますが、たまたま、片山丸だったのでカジキを上げる設備がきちんとあり、
知識を持った船長だったので安全に上がりましたが、後先考えずに大変無謀なことをしていたと反省しています。
もし、マイボートでやる場合や設備の無い船へ乗る場合で船にカジキを上げたいと考えるならカジキ釣りの竿やリールを揃える前に
捕獲道具(銛、フライングギャフ ワイヤー ロープ 頭部を打ちとどめをさす鉄棒 大鍵 手動式チェンブロック等)を
先に揃えないと事故の元ですし、200kgを超えた魚体を船に上げることはラインディングの為に船の舷が切ってある船以外は
上げることは出来ないのではないかと思います。
車のチューニングに例えるとエンジンのパワーアップをする場合に、まず、ブレーキや足回りやボディー剛性の強化が
先でエンジンのパワーアップはそれらが整ってからです。カジキ釣りの場合、タックルの前に捕獲道具を揃えることが
先です。安易に考えると本当に危険です。
人数も役割分担を決めて船長さんも含めて4人以上いれば安心です。
楽しいはずの趣味で怪我をしたり命を落とすようなことがあってはなりません。
私が言うのも何なんですが、大型魚には準備万端で心には緊張感と慎重さをもってトライして頂きたい。
上記の話は大変立ち入った話であり不愉快に思われた方もおられるかと思いますが、事故が起こって欲しくないとの
思いで書かせていただきました。
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